EDアーティスト・汐れいら インタビュー
原作も自分らしさも大切に納得いくものができた、自身初の書き下ろし曲
――初めに汐さんがTVアニメ『薫る花は凛と咲く』にEDアーティストとして参加することになった際の、率直なお気持ちから聞かせてください。
- 汐れいら
- 過去に別アニメで既存曲を使っていただいたことはあったのですが、楽曲の書き下ろしは今回が初めてだったんです。なので楽しみな気持ちもありつつ、どんな感じになっていくのかな……?とドキドキしながら、これまでにない感情で制作を進めていきました。
――EDテーマ『ハレの日に』は、汐さんにとって初挑戦となる楽曲だったのですね。制作時はどんなことを考えていましたか?
- 汐れいら
- まず原作を読めば読むほど、キャラクターたちに愛着が湧いていきました。ただ、どこまで忠実な楽曲にするか、自分らしい要素はどこまで出そうか……というのは、悩んだところで。というのも、普段曲を作るときは、正解とは言わずとも、自分のなかで「こっちのほうがしっくり来るな」といった、直感に近い“自分が良い”と感じるものがあります。でも今回はTVアニメ『薫る花は凛と咲く』への楽曲を作るわけなので、どこまで突き詰めたら良いだろう……と。それに原作から受け取ったものというのも、あくまで私の物差しでしかないから、私以外のみなさんはどう感じているのかな?と考えていて。そんななか、ちょうど高校生の妹が原作の読者だったんです。
――そうだったんですね。
- 汐れいら
そこで「このメロディ、どうかな?」と聴いてもらったところ、「EDで流れてそう!」と言ってくれて。自分が書いた曲をほかの人がどう感じるかって、もうその人の主観や好みに依るところだと思うのですが、今回に関しては、自分以外の原作を知っている人の視点という、一個信頼できる尺度が入ったことになるので、妹の感想を聞いて安心しました。また普段の楽曲制作では、どんな曲を作っても良いという自由度があるあまり、迷ってしまうこともあるんです。その点今回は「『薫る花』はこういう色で、こういう雰囲気の作品だな」「TVアニメになったらこんな曲が流れていそうだな」といった、ある種の確信を持って、納得いく曲を書くことができました。「あ……これは良い曲が作れた!」という、いつもとは違った満足感があり、それも嬉しかったです。
恋より愛に近いお話から浮かんだ“結婚式”のモチーフ
――改めて原作コミックにはどんな魅力を感じましたか?
- 汐れいら
- 昔から少年漫画をはじめ、漫画はいろいろ読んできて、最近は恋愛漫画を読むことも多いんです。そのなかで『薫る花』にまず感じたのが、誰にも負の感情がないということ。大抵の作品には、ちょっと嫌な人が出てくるものじゃないですか? 悪者がいることで、展開が盛り上がることもありますし。でも本作はそうした要素がないにもかかわらず、こんなにも面白く読み進められる物語になっているのがスゴいなと思いました。関係が変化していくスピード感自体はピュアな速度ですけど、それでもすごくときめいて。それに全体的に、恋より愛に近いお話だなと感じたんです。
――作品の芯を捉えた素敵な表現だと思います。
- 汐れいら
- 友情に関しても、友情というより愛情と表現するほうが近いように感じました。だから私も、そういうところを歌詞で書けたらなって。かと言って『薫る花』って、何か大きなテーマを扱っているというよりは、登場人物たちが“小さい幸せを大きい幸せだと思う心を持っている”お話だとも感じ、その視点も持てたらなと。そこで結婚式を少し匂わせるような、“結婚式ぐらい大事な毎日”という想いを込めてできたのが、『ハレの日に』です。
――結婚式がモチーフとなっているのですね。
- 汐れいら
- 原作で表現されていることをそのまま楽曲に起こした場合、登場人物たちの発言を重んじている反面、誰でもできてしまうことというか……。だから『薫る花』ともリンクさせながら、違う視点から楽曲を書けたらなということは、特に意識していたことでした。そんななか原作を読みながら、作品全体にどこかお花の雰囲気が漂っている気がしたんです。お花を渡すシーンは出てこないのに、作品名や人物名、それにケーキ屋さんからも、お花が連想されて。さらにそこから、真っ白と虹の2つの色のイメージが浮かび、結婚式に繋がっていきました。
――結婚式には、お花とケーキが欠かせませんもんね。
- 汐れいら
- 結婚式って人生でも特別な日になる、大事なイベントじゃないですか。ただ『薫る花』の子たちは、いつも特別な日常を過ごしているというか。結婚式みたいな特別な日じゃない、ごく普通の一日でも、お花を贈りたいと思える相手がいたり、ケーキを贈ってくれる人がいたり。そもそもお花やケーキがなくたって、大事な人となら毎日を特別な日にすることができる。そういうことを『薫る花は凛と咲く』というタイトルや、凛太郎くんのお家がケーキ屋さんといったところから感じ取りました。加えて晴れた日の情景も浮かび、そこもハレの日として結婚式に繋げることができるなと。「来た、これ良いかも……!!」と閃いた瞬間、すごく快感だったのを覚えています。
――では『ハレの日に』は、歌詞が先に完成したのでしょうか?
- 汐れいら
- それがメロディだったんです。ただメロディも、自分のなかで「これは『薫る花』っぽい。こっちはぽくない」と色を感じるもので、作品と同じ色になるよう書き直しながら進めていきました。当初サビのパターンに悩んでいたのですが、スタッフの方から「どっちも使ったら?」と意見をもらい、最初のサビとその後のサビにそれぞれ取り入れて、違うメロディにしています。
――ご自身としても特にお気に入りのフレーズは?
- 汐れいら
- 「I’ll eat a cake とびきり小さくてもいい」です。最初は「とびきり甘くなくてもいい」とかにしようかな?と思っていたんですけど、原作に実は薫子ちゃんは意外と甘さは控えめのほうが好きとあったのと、たくさん食べる子というところで、原作に添ったものにしたいなと、この表現にしました。それから落ちサビで「今はベールの中 哀しいことは君と見つめたい 顔を上げさせてくれる君と」。ここは結婚式でベールを取ってキスをする女の子の情景を、思い浮かべながら描きました。個人的に、嬉しいこと以上に哀しいことを共有できたら、それってもっと素敵なことだなと考えていて。この曲は出だしが「泣いてしまった空をみてた」「涙のあと 乾いてくれない」と雨模様なのですが、そんな下を向いている自分の顔を上げさせてくれる人がいて、心も天気も晴れていく情景を描いています。
――レコーディング時の思い出も聞かせてください。
- 汐れいら
- 最初はもっと柔らかく歌っていたのですが、タイトルに「凛と咲く」とありますし、もっと強くても良いのかも?と修正しました。普段から曲ごとに声色を変えることを意識しているのですが、どうしても「この曲はこういう感じで歌わなきゃ」と、イメージが凝り固まってしまうことがあって。そういうふうに捉われないことも大事だよなと、今回は柔らかさより、強さを出して歌ってみています。
男女間でも何かを贈り合える信頼関係や友情も素敵
――ご自身の楽曲が付いたED映像は、ご覧になっていかがですか?
- 汐れいら
- 曲だけを聴いているのと、TVアニメで映像になって流れるのとでは、自分の感じ方もまた違いました。EDは私が書き下ろした曲に画を当ててくださっていて、それを観てさらに考察してくださる方や、作品だけでなく楽曲や私のことまで検索してくれる方もいて。何より昔からいろんなアニメを観てきましたけど、自分の名前がクレジットされているのが、とにかく嬉しかったです! 完成映像を目にするまでは、正直実感が湧いていなかったんです。でも今は、過去の自分に「スゴいじゃん?」と言えるなって。それに家族と一緒に、TVの大画面で観られることも嬉しくて。いつも22時には寝てしまうおばあちゃんも、『薫る花』の放送まで毎週スタンバイして、クレジットを観るために起きてくれています(笑)。
――では物語の部分で、登場人物たちの心情描写に注目して、特に印象深かったのは?
- 汐れいら
- 薫子ちゃんの気持ちが、凛太郎くんにはうまいこと気付かれずに話が進んでいきますけど、私たち読者&視聴者にはバレバレというか、ダダ漏れというか(笑)。第3話の「勉強教えてくれませんか?」も、もし自分が好きな人から言われたら、すごく嬉しいだろうなと観ていました。ほかにも好きな人とどこかに行けたり、何かに誘ってもらえたり、電話で話せたりするのも、薫子ちゃんの気持ちを知っているからこそ、良いなー!と。それに何より、思ったことをまっすぐ言えるみんなに感心しています。私は好きになったら相手に「好き」と言うことはできるタイプですが、うまく行き始めたらもう言わなくなってしまう、“付き合ってるから分かるでしょ?派”なんです(笑)。その点『薫る花』の子たちは、どこまでもしっかり自分の想いを言葉にするんだろうなと思います。
――放送されたばかりの第11話は、昴から薫子の誕生日を知らされた凛太郎が、手作りケーキをプレゼントする回でした。
- 汐れいら
- まず、お家がケーキ屋さんの凛太郎くんと、そのケーキが好きな薫子ちゃんっていう、関係性が良いですよね。ケーキを誰かにあげるって、そもそも勇気がいることなのに、しかも自分でそれを作るって、もうスゴいことじゃないですか。凛太郎くんは最初、過去の経験から自分の家がケーキ屋さんだと明言してはいなかったけど、だんだんそれを気にしなくなったのは、もしかしたら薫子ちゃんが「好き」と言ってくれるからなのかな?というのもあるんだろうと個人的には思って。それに男女で何かを贈り合えるのって、「相手は絶対喜んでくれる人だ」という信頼関係があるから成り立つ気がします。私だったら女の子でも男の子でも、欲しい物は自分で買えるだろうからと、無難にご飯をご馳走するとかにしちゃうんですね。だから双方無意識だとは思いますけど、みんなの信頼関係も素敵だなと感じました。
――汐さんご自身は「楽しいことや幸せなことだけでなく、悲しいことや辛いことも共有して生きていけたら良い」「世の中は決して善人ばかりじゃないけれど……」といった価値観・世界観をお持ちなのかな?と感じています。そんななか『薫る花』に出てくるのはいい人ばかりなわけですが、本作に触れたことで何か新たな価値観を得たり、ご自分の引き出しが増えたりした部分はありますか?
- 汐れいら
- 確かに登場人物はみんないい人ですけど、それこそ最初は学校同士の仲が悪く、友達には優しい面を見せるのに対して、そうでない人には友達を守るためにも強く出てしまったり、それゆえに悪い人に映ったりもするじゃないですか。だからどんな人でも状況次第で、いい人にも悪い人にも見られる二面性があるものなのだなと感じました。他作品ではそこをもっと極端に描いていることが多く、自分視点となると、現実ではそうなりがちなんだろうなとも思います。ネットなんかは特にそうでしょうし、裏にはそれぞれいろんな理由を抱えていたりしますし。ただそんななか『薫る花』の登場人物たちは、自分の悪かったところをちゃんと謝れるじゃないですか。そこがとにかくスゴいなって。『薫る花』のみんなには、疑心暗鬼を超える友情と信頼関係がちゃんとあって、しかも実際みんないい人で。なんて綺麗な世界……!と感じました。
変化していくものがあるからこそ、若いうちにやりたいことは絶対やったほうが良い
――凛太郎や薫子と同じ、若い世代の方々に、学生時代にやっておくと良いことなど、汐さんから何かアドバイスがあれば伺いたいです。
- 汐れいら
- どんなことでもやったほうが良いと思います。私もそうでしたが、20歳を超えると、どうしても大人扱いされるようになるというか、他の人の都合で大人とも子供とも言われる場面が増えてくるんです。甘えようとすると「大人でしょ」と言われるし、大人になろうとすると「まだ子供でしょ」と言われるし。ちょっと話が変わるんですけど、例えば「バンジージャンプがやりたいな!」と思ったとして、「だけど危ないかも……」と不安要素を考え出したら、絶対飛べないと思うんですよ。そうやって歳を重ねるごとに、やりたいことより、リスクのほうを考えてしまいがちで。精神力も体力も感性の豊かさも、絶対変化していくものだから、若いうちにやりたいことは絶対やったほうが良いです。それから何かひとつで良いから、好きなことを持っておけると良いし、それを続けられたらもっと良いと思います。
――若いからこそできることもありますもんね。
- 汐れいら
- はい。あとは「ここにいちゃいけない」と感じる場所には、いないほうが良いと思います。というのも「自分の個性は周りにいる4人の仲良しによって形成される」という話を、個人的にけっこう信じていて。だから「なんか合わないんだけど、なんとなく一緒にいる人」みたいな時間の使い方は、見つめ直せると良いかもしれません。高校生には高校生の、時間やお金の難しさとかがあるとは思うんですけど。もし自分が10代に戻れたとしたら、意識したいところですね。
――ちなみに汐さんから見て、今の10代の方々とご自身の10代の頃とで、何かギャップや色を感じる部分はありますか?
- 汐れいら
- 自分の頃と比べたら、今の若い方たちは進みすぎなくらい、すべてが進んでいるなと感じます。やっぱりTVよりネットの時代ですから、情報に触れる機会もより増えているのはあるんでしょうけど。妹やその周りのお友達を見ても、お化粧しかりみんな美意識がすごく高いし、精神的にも大人な子が多いような印象です。
――『薫る花』の登場人物たちは「ありがとう」や「ごめん」を臆せず伝えられる姿が印象的ですが、汐さんが日々誰かとコミュニケーションを取る際、大切にしていることは何でしょう?
- 汐れいら
- 親しき仲にも礼儀ありを重んじるのは前提として、私は言葉の価値を大事にするあまり、嘘を言えないタイプなんです。だからお世辞も、本当なら言ったほうが絶対円滑にコミュニケーションが取れることは分かっていても、思っていなければ言わないようにしています。あくまで自分の中で辻褄が合わないから、というだけのことなんですけど、その整合性をちゃんと取っておきたくて。ただ、「自分はこれが好き」「これは良くないと思う」といった揺るぎない考えがあったとしても、それをほかの人にまで求めたりはしないようにも気を付けています。例えば浮気している友達がいても、「やめなよ」とかは基本的に言わないですね。
――「自分はこう思うけれど、あなたがどう思うかどう感じるかは、あなた次第だから」と、ラインを超えないように心掛けている……というか。
- 汐れいら
- そうです。多分私自身がラインを超えてきてほしくない、というのもあると思うんですけど。個人、個人でありたい……というんですかね。どんな方でも、それぞれが良いよね!というか。あとは友達とはなるべく楽しい会話ができるように、面白い質問を意識しています。これは自分が「この角度から聞いてくるんだ!?」といった、面白い投げかけをくれる人と話すのが楽しいからで。自問自答では得られない、新しい自分を発見できるのが楽しいんだと思います。それに私もそうですけど、自分の話ができるのって楽しいし、スッキリする人が多いかな?と思うので。
――それでは最後に一言メッセージをお願いします。
- 汐れいら
- 毎話EDがどのように流れるのか、私も楽しみに視聴しています。『薫る花は凛と咲く』に書き下ろさせていただく機会がなかったら、『ハレの日に』が生まれることは絶対なかったので、この出会いに心から感謝しています。PVも素敵な仕上がりで気に入っているので、ぜひご覧いただけたら幸いです。またこのアニメから私のことを知ってくださった方も多いと思いますので、声が良いかも、歌詞が良いかも……と、何か感じるものがもしあれば、ぜひ違う楽曲もお聴きいただけたら嬉しいです。これからも何度でも、『ハレの日に』をみなさんにお楽しみいただけますように。