紬凛太郎役・中山祥徳 & 紬杏子役・日笠陽子 対談インタビュー
不器用だけどすごく真面目。そんな凛太郎の“一番の味方”でいたいんです
――初めに日笠さんが原作コミックを読んで、『薫る花は凛と咲く』にどんな魅力を感じられたか、教えてください。
- 日笠
- すごく懐かしい気持ちになったというか。私たちがもう忘れてしまった、あの頃の甘くもなく苦くもないような……。自分の言いたいことが言えなかったりする、若さゆえの“ボタンのかけ違い感”みたいなものを感じました。ただ、それも含めて美しいなとも感じたんです。小さい子って、絶対最初はボタンをかけ間違えてしまうものじゃないですか?そんなあるべくしてあるものが描かれている、といった印象を受けました。
――では凛太郎の母・杏子を演じられての、息子自慢をぜひ聞かせてください。
- 日笠
- 母の気持ちでお答えするとなると、誰かと比べるとかではまったくないのですが、自分の息子ってやっぱり一番可愛くて。ほかの人からは凛太郎が怖い人に見えても、私には不器用で、でもすごく真面目な青年に映ります。だから自分は、そんな彼の一番の味方でいようと思いました。味方っていうのは、全部を肯定するということじゃなく、それは“母の愛”とはまた違うというか…彼が成長していくために必要なことは全部したいし、そのなかに手放すことが入っているのであればそうするべきだなと。本当に愛情しかなくて、いろんな人と関わりながら一人前の立派な男になっていってほしいな!と思っています。ほかの子よりは不器用かもしれないけれど、それでも私にとってはそんなところも、とても愛おしいです。(頬が緩んでいる中山さんを見て)……え、何?何よ?
- 中山
- いや、三者面談をしているような気分になってきて……(笑)。
- 日笠
- 三者面談!?そうかなあ?(笑)。
――中山さんは杏子のどんなところが素敵だな、自慢の母だなと思いますか?
- 中山
- 杏子さんは、距離感がすごくいいなと思っています。特に第5話の「だってあんたはあそこで謝りに行かないやつじゃないもの」だったり、凛太郎は絶対に悪いことはしないという100%の信頼があるんだろうな、その関係性がとても素敵だなと感じました。個人的に薫子以外となると、この作品で一番好きな登場人物がお母さんで。それにけっこう、自分の母親と重なる部分もあるんですよね。
- 日笠
- へえ、そうなんだ!
- 中山
- 僕の母もわりと、「勉強しろ!」とか「〜〜しろ!」と、口酸っぱくは言ってこないタイプで。「人として当たり前のことができていれば、それでいい。あとはあなたのやりたいようにやりなさい」と言う人なんです。だから『薫る花』を読んだとき、母のことをすごく思い出しました。
――それは作品との素敵な縁を感じますね。日笠さんは杏子の魅力について、どのように感じていますか?
- 日笠
- 女性性を持った人間から考えると、「好きにやっていいわよ」と言うのって、なかなか難しいものだろうなと思いました。これは諸説ありますが、第一子はお母さんもお父さんも1年生ですから、何もかもが初めてで、「わあ、どうしよう!これはして大丈夫かな?これをしたらとんでもないことにならないかな!?」となりながら子育てをする。けれど第一子を経て子育ての経験値が上がり、意外とここまでは大丈夫だぞというのが分かって、それゆえにちょっとほったらかせるようになる結果、第二子はのびのび育つと言われたりするじゃないですか。私も凛太郎と同じ第二子なんですけど、そんなところもあったりするのかな?と思いました。それでも杏子さんとしては、そのなかで凛太郎のことをすごくよく見ているし、彼への後悔も感じていて。今こうなっている彼にとって一番良いこと、自分が母親として渡せるもの、母親であるべくしてあるものって、一体何だろうか……?と、多分いっぱい考えたんでしょうね。細かく描かれてはいないけれど、彼女の母親としての矜持というか、今まで正しいと思って積み上げてきたものは、多分一度壊れたんだと思うんです。でもガラガラと崩れたときに、残ったものも確かにあって、じゃあもう一回凛太郎と親子として歩もうとなってから、また積み上げようとしてできた教育方針が、きっとそっと見守るだったんだろうなと。ほら、お兄ちゃんの姿も出てきたりするからさ?
- 中山
- そうでしたね
- 日笠
- そんなことも想像しながら、第9話の収録をしていました。
“お母さん”って何だろう?――悩んだ先で見つけた答え
――第9話までで凛太郎と杏子、ふたりのやり取りのなかでも、特に心に残っているところを挙げるとしたら?
- 日笠
- どうですか?凛太郎さん。
- 中山
- これは完全に凛太郎というより僕がなんですけど、第9話で見ることができた母の想いみたいなものには、グッときました。『薫る花』のお母さんのシーンのなかでも、一番良い場面だと思います。
- 日笠
- そうだね。凛太郎から「ありがとう」と言われたのって、こちらにとってはすごく大きくて。それを素直に言葉にするタイプの子ではなかったと思うし、まずこの「ありがとう」自体、何に対して言ったのか、明確には描かれていないじゃないですか。でも多分杏子さんは、彼と繋がっているから分かっていて。もしかすると作中では描かれていない、彼女と凛太郎がこれまで一緒に生きてきた人生という本のページにあったことも、含まれているんじゃないかなとか。だから多分彼は今日のことについて「ありがとう」と言っているんだけど、私は「今までありがとう」ときっと言っている、と受け取りました。たった一言ですけど、あれでこれまでの本の全ページをめくり返せてしまう一言でした。それくらい「ありがとう」という言葉って、すごい力を持っているんだということを、第9話の収録で感じました。
――ちなみに日笠さんは杏子を演じるうえで、印象深かったディレクションはありますか?
- 日笠
- 最初年齢を上めに意識して演じていたところ、「もっと若く」と言われて驚きました(笑)。それはただただ、私が役者として未熟だったことによるもので。言ってしまうと、“お母さん”ではなく、“お母さん像”を演じようとしていたんです。お母さんってこんな喋り方で、こんな雰囲気で、器が広そう……みたいな。外見から思い描いたお母さん像を演じようとしていたから、そのご指摘を受けたのかな?と。「もっと等身大でいいよ」ということだったのかな?と捉えています。それで単に年齢を下げるとかではなく、もっと杏子さんの内側に向かわなければダメだ……と悩み散らかしまして。音響監督の濱野(高年)さんと別現場で会うたびに、「どう思う?“お母さん”って何……?」とディスカッションして、これはずーっと自分の中のテーマとなっていたことでした。役者ですし、きっと最初は単純に“演じる”でいいと思うんですよね。そうやって外から固めていくなかで、それこそ凛太郎同様、私もいろんな人と触れ合って、ディスカッションして、作品を作るチームというものが作られていく。その先で、「母親」とか「母親という立場」ってこういうことだろうなという答えを、自分のなかに一個持つことができました。濱野さんからは「エンタメなんだから、理想でもいいんだよ」とも言われていて。それくらい“母親” というものは、みんなが理想を求めてしまうほどに、どこか甘美なものなんじゃない?って思ったの。
- 中山
- ああ、確かに。
- 日笠
- エンタメですらそう欲してしまう“母親”を、私も『薫る花』で生きて演じ切ろう……!と思うことができました。
――ちなみに日笠さんが答えを見つけたきっかけや、具体的な答えを伺うことはできますか……?
- 日笠
- これはもう、絶対言葉にはできないんですよね。“愛” というワードでしか、答えられなくて。それにこの作品だけではなく、私が実生活含めいろんな人と日々関わるなかで見つけた、自分なりの “母”という答えでした。これがじゃあ凛太郎と杏子さんの関係性にそのまま当てはまるのか?というと、また違うかもしれないな、という気もします。たださ、“母なる地球” とか言うじゃん?それくらい母って広いものだと、私は思っているわけ!
- 中山
- うんうん、そうですね!
- 日笠
- だから私の答えは何かしら、きっと杏子さんにも繋がっていると思う。彼女が私の元に「自分を演じてね!」とやって来た理由も、きっと何かあるはずだし。凛太郎があなたの元に来た理由も、絶対にあるしね。
- 中山
- そっか……。
- 日笠
- 絶対役には選ばれていると、私は思う。私たちキャストが選ぶのでも、キャスティングの方々が選ぶのでもなくて、どこか役のほうが「よいしょ〜!」と来てくれている……と、私は考えているんです。それに答えは見つかっているけれど、そのとおりにできるかとなると、それはまた別の話なので(笑)。その答えに近付くための努力を、人として、演者として、やって行こうぜ!と思っています。まだまだ私も修行中です!
先輩の偉大さを痛感した、置鮎龍太郎さん演じる圭一郎
――それではおふたりの役柄以外の登場人物のことも、少し伺えたらと思います。まず凛太郎の父・圭一郎が第9話で登場しましたね。
- 中山
- 第9話に出てきた凛太郎の幼少期の回想で、若かりし頃のちょっとした夫婦のやり取りが描かれているところとか、僕はめちゃくちゃ好きでした。「うん」といった単なる相槌だけで、長年連れ添った空気感が出来上がっていて、お母さんもお父さんもスゴいなあ……!と感じました。実は濱野さんが、ずっと「お父さんはどんな声だろう?」と悩まれていたんですよ。
- 日笠
- えーそうだったんだ!
- 中山
- そうなんです。「この声が出てくるお父さんでしょ……?」って。だから第9話ですごくフラットな印象のお父さんが出てきて、あれは確かに凛太郎のお父さんだ……!と感じました。
- 日笠
- うんうん、凛太郎のパパだなって思うよね。
- 中山
- 冗談もこの顔のまま、きっと言うんだろうな?とか(笑)。今後の登場がますます楽しみになりましたね。
- 日笠
- 私もどういうお父さんで来るんだろう?と気になっていたところで。最初は圭一郎役の置鮎さんが、すごく優しいお父さんを演じられていて、多分ですけど私と同じアプローチだったんじゃないかな?と思うんです。でもそこからが本当にすごかったんですよ。私は第9話までかけて、杏子さんをああでもないこうでもない……とやってきましたけど、置鮎さんは1〜2回ちょこっとディレクションをもらってリテイクしただけで、「ああこっちか。なるほどなるほど」とパンパンお芝居を変えて、落とし込んでいらっしゃったんです。先輩ってやっぱりスゴいんだな……!と感じさせられましたし、演者としてただただ尊敬でした。
- 中山
- 本当にすごかったです。
- 日笠
- 視聴者側って、例えば圭一郎であれば、彼を主役として見るのではなく、 “主役である凛太郎のお父さん”として見ますよね。だからエンタメやアニメとしては、凛太郎がまず主軸として作られるべきです。そうなったときに、この人は確かに凛太郎のお父さんだ!と思えることが大事になってきます。そしてそれがきちんと表現できるところが、やっぱり先輩って偉大だなと。なんか若干、声も似てたもん。低いときに出す音が。(スタッフさんに)思いませんでした?
- スタッフ
- これは生まれる!って思いました!
- 日笠
- いやいやいや、父ちゃんからは生まれてこないんですけどね!?(笑)
- 中山
- あはははは!
- 日笠
- でもDNAを感じましたよね。
- 中山
- そうですね。
- 日笠
- それはじゃあ、キャスティングチームがスゴかったんだね。
――日笠さんからご覧になって、凛太郎と関係を深めていく和栗薫子の魅力や、ふたりの関係性はいかがですか?
- 日笠
- もう自分の娘!くらいに思っているんですよね。だって息子の嫁でしょ?
- 中山
- 日笠さん、早い早い!
- 日笠
- そう?常に前へ、前へ!
- 中山
- 結婚はちょっと気が早いです(笑)。まだ高校も卒業していないので!
- 日笠
- なんだ、もう娘だと思ってた(笑)。薫子ちゃんは本当に良い子だし、うちのケーキを大好きでいてくれるし、とても可愛らしい聡明なお嬢さんですよね。ただ私はやっぱり、凛太郎を主軸として見てしまうから、彼女に凛太郎を想う気持ち、「好き」という気持ちがあることが大きくて。何より、凛太郎自身がいいと思う人が、私もいいなと思っています。そして息子がいいと思っている人であるならば、絶対に良い子だろうと信じています。
心温まり幸せをくれる……『薫る花』はまさにケーキのような作品だと思います
――では人生の先輩として、日笠さんから何か凛太郎に言葉を贈れるとしたら、伝えたいことはありますか?
- 日笠
- ええ!日笠陽子からキャラクターへ!?斬新すぎませんっ!?ちょっとじゃあそれは一緒に考えて?
- 中山
- (笑)。僕は別なところで「そのままでいい」って言いました。「そのままでも、凛太郎ならきっと道を踏み外すことなくまっすぐ進むだろう」って。
- 日笠
- なるほどね。日笠陽子からとすると……金髪とピアスは一時期だけにしておきなさい。
- 中山
- ええー!?
- 日笠
- でもいつか気付くときが来るだろうとも思うので。まあピアスはいいか。金髪もなあ……わけえもんの気持ちも分かるんだがなあ!
- 中山
- 若いうちしかできない……わけでもないですけど!
- 日笠
- いや、本当に気持ちは分かるんだよ?しかも彼の場合、別にイキってやっているわけじゃないもんね。
- 中山
- そうです。決してグレたりスレたりとかではなく、憧れからなので。
- 日笠
- だから今のは、現代を生きる陽子目線からの面白発言でした。すみません!
――最後に第10話からの見どころを踏まえて、メッセージをお願いします。
- 中山
- 第8話の水族館を経て、凛太郎がとうとう薫子への気持ちに気付いたので、今後その感情とどう向き合うのか、ご注目ください。また新たに登場したお父さんとの関係も、ぜひ楽しみにしていていただけたらと思います。
- 日笠
- 今思ったんだけど、ケーキってこの作品における、大事なファクターじゃない。なんで原作の三香見サカ先生は、ケーキにしたんだろう?なんでだと思う?
- 中山
- うーん……どうしてでしょう……。
- 日笠
- いや私ここまで、作品の“人”にしか目が行っていなかったんですけど、きっと何かありますよね。
- 中山
- よく薫子がケーキを食べて優しい味がすると言ったりしますし、ケーキを通じて気持ちを伝えるみたいなところがあるのかなって。
- 日笠
- ケーキを食べて大体の人はさ、「うま〜……!」って、ほや〜ってなるじゃん?確かにそこに嘘はないよね。その瞬間って、きっとその人の素なんだろうね。美味しいって前向きで幸せな気持ちだし、それを家族や好きな人と食べられることも、それを誰かにお渡しするために作ることも、すごく素敵なことですよね。だってケーキ、作ったことある? 死ぬほど大変だよ。買ったほうがいいってなる、本当に!
- 中山
- ですよね。スポンジ生地を膨らませるのも、クリームを綺麗に塗るのも難しいですし、時間も掛かりますし。
- 日笠
- そう!ケーキってそれくらい手間が掛かるものだから、よっぽど食べる人のことを想わないと、あの工程はできないかもと思いました。ケーキって、いっぱいいろんな感情が詰まっているものなんだろうな。『薫る花』はまさに、観てくださる方々にとってのケーキのような作品だと思います。じわ〜……っと心が温かくなりながら、私たち作り手の想いも一緒に届いていたら嬉しいですし、受け取っていただけましたら幸いです!ああ、楽しいインタビューだったー!!
――おふたりは本作で初共演されたとのことですが、とても打ち解けていらっしゃるなと感じました。
- 日笠
- なかよぴだよね?この現場!
- 中山
- でも僕は初手の第1話、緊張していましたよ。でもそれも、日笠さんが場を温めてくださって。
- 日笠
- ええっ!?私そんなことした?全然記憶にございませんだよ。
- 中山
- 本当ですか?今これだけ朔役の内山(昂輝)さんと喋れるようになったのも、日笠さんのお陰です(笑)。
- 日笠
- ああ、私は内山昂輝をひとりにはさせないマンだからね!(笑)ひとりでいたら「うっちー!」って呼ぶし。でも今日現場を見ていて、みんな仲良さそうで良かったあ……!って、一安心したよ。お役御免!
- 中山
- 本当に作中どおり家族や友達のような関係が築けている、等身大の現場ですよね。
- 日笠
- 本当にね!うっちーはうっちーで、「俺だけ上だよ、どうしよう……」となっていたんですよ。そんなの気にしなくていいのにねえ?
- 中山
- 最近は内山さん、それは言わなくなりました。
- 日笠
- 言わなくなった?いけるって思ったんだな、きっと。俺まだまだ若い役もいいける……俺もまだ若いぞ!って(笑)。