SPECIAL

スペシャル

講談社 平岡 雄大×アニプレックス 堀 祥子
×CloverWorks 辻󠄀 俊一 座談会インタビュー

この座組みであれば素晴らしいものが必ず上がってくる!という、絶対的な信頼があります

――2025年7月5日から、講談社『マガジンポケット』連載コミック『薫る花は凛と咲く』のTVアニメが放送開始します。まず本作にどんな魅力を感じ、アニメ化の企画が始まったのでしょうか?
元々『マガジンポケット』読者なのですが、少女漫画的なイラストを見つけ、「『週刊少年マガジン』っぽくない作品だな……?」と思い気になって読み始めたのが、この作品との出会いでした。
王道恋愛モノかと思いきや、人と向き合うことや、それぞれが持つ優しさ、そしてその優しさを相手にどう届け、受け取るか……といった、人間関係の構築を描いているところがすごく素敵だなと。
凛太郎と薫子を含め、登場人物全員が“言葉にする強さ”を持っていますし、言葉の選び方、伝え方、受け取り方も、一貫して丁寧に描かれている印象を受けました。
それでいて、決して押し付けがましく感じさせないストーリーになっているところもスゴいなと。
この作品が持つ柔らかくて温かな空気感や優しい世界に憧憬を覚え、アニメ化することで年齢、性別、国籍をも超えた多くの方にぜひ観てほしい!と企画を立ち上げました。
――制作スタジオとしてはCloverWorksさんですね
丁寧な心理描写と青春感を美しいフィルムで表現してくれるといえば、CloverWorksさんだろう!と考え、上司に相談し、お引き受けいただけることになりました。
――では辻さんは原作コミックを読んで、どんな印象を抱かれましたか?
辻󠄀
私はアニメ化の企画が降りてきた段階で初めて原作を拝読したのですが、誤解を恐れずに言うと、最初は少し引っかかる部分があったんです。
というのも、私は熱血主人公が修行をしてライバルを倒して……といった、ゴリゴリの少年漫画で育ってきた世代なので、これは本当に少年誌の漫画なのだろうか?と驚いたんですよね。
意見がぶつかったときにキャラクターたちが自分が謝るという選択をするのも印象的で、もっと自信を持ってもいいのにと。古の少年漫画では、そんなふうに出会い頭で謝るヤツはいませんから(笑)。
平岡
たしかに古の少年漫画はそうですね(笑)。
だから原作の三香見サカ先生は、今の若い人たちの空気感や距離感を捉え、表現されているんだろうなと感じました。
これをアニメ化した場合、テンポ感含めどういう表現にしていけばいいだろうか?というところが、課題のひとつになるのではないか……と思ったことを覚えています。
作画面は現在入ってくれているスタッフ陣がスペシャルな方ばかりで心配はなかったため、とにかく映像化したときに、コミックを読んだときと近い印象を与えられるフィルムにできるかが、個人的には気になりました。
平岡
三香見先生は高校卒業後の10代から、この作品を描き始めているんです。
その点ご指摘のとおり、今の若い子たちのリアルを自然に描けているのだと思います。
――アニメ化は多くの漫画家さんにとって目標のひとつかと思いますが、担当編集者である平岡さんとしては、アニプレックス×CloverWorksの座組みに決まった際はどんなお気持ちでしたか?
平岡
率直に「やったー!!」と思いました。
いつ頃だったかは忘れてしまったのですが、社内のライツ担当に「CloverWorksさんとアニプレックスさんに、『薫る花』を紹介しておいてくれない?」とお願いしたんですよ。
そうしたら「実はもう企画が進んでいまして」と。
辻さんやアニプレックスさんとは、別の担当作『WIND BREAKER』のアニメ化でもご一緒させていただいていて、期待という不確定なものではなく、「素晴らしいものが必ず上がってくるに違いない!」という絶対的な信頼がすでにありました。
だから特にこちらからお願いや注意すべきことは何もないなという気持ちで、今はただただ完成が楽しみです。
……すみません、プレッシャーに聞こえるようなことを言って(笑)。
辻󠄀
いえいえ、信頼いただいてありがとうございます(笑)。
引き続き頑張ります!(笑)
――原作者である三香見サカ先生にアニメ化を伝えた際の反応はいかがでしたか?
平岡
僕はいつも、さらっと伝えてしまうんですよ。打ち合わせの電話のついでに、「ご報告事項としては、アニメ化が決まりまして。詳細は追ってお伝えします」といった感じで。
だから三香見先生も最初は「あ、はい……」という反応でした。
一同
(笑)。
平岡
後日「さらっと言われるから、さらっとしか返せませんでした!もっと喜ばせてくださいよ〜!」
といった苦言はいただきましたが(笑)、すごく喜んでいらっしゃいましたね。
アニメ化決定のPVが公開されたときも、初めて映像化された『薫る花』を観て、そのクオリティの高さに本当に感動したと仰っていました。
――元々「アニメ化されたらいいね」というお話はされていたのですか?
平岡
いえ、そういった話はあまりしないようにしています。
作家さんにはまず何よりも、毎週面白い作品を作ることに集中してほしいんです。
そもそも連載を高いレベルで続けられなければアニメ化はされることもないですし、無事決まったとしてもそこで満足してほしくないというか。
全国大会出場は通過点……という感覚でいてほしいんですよね。
――では先生が今回のアニメ化で楽しみにされていることは?
平岡
キャラクターの気持ちが昂るところでの、漫画にはないプラスアルファな演出をすごく楽しみにされています。
既に出ているPVや見せていただいているコンテなどからも、原作には出来ない素敵な表現の一端がたくさん垣間見えていましたから。

ケーキの具材は? 色は? 作り手たちの高い解像度に、驚かされる日々です

――そもそも原作の連載はどのように始まったのか教えてください。
平岡
三香見先生が17歳のときに、『マガジン』の月例賞に投稿されてきたんです。
当時はダークなファンタジー系で、コマ割りも今の倍ほどある漫画を描かれていたのですが、キャラの感情を伝える能力においては、そのときから明らかに非凡なものがありました。
そこをもっと活かせたら、より良い作品ができるだろうと思ったので担当につかせていただきました。
実際お会いしてみたところ、ご本人がまずめちゃくちゃ良い人で。
そんな著者の人柄が存分に生かせるような「優しい世界観の作品を描いてみませんか?」とご提案し、ご本人も「描きたいです」ということで、『薫る花』が生まれました。
僕の編集人生史上、最もスムーズな立ち上がりで、何の苦労もした記憶がありません。
――では改めて平岡さんは、三香見先生が描かれる『薫る花』にどんな魅力を感じられますか?
平岡
今お話ししたように、作家さんの特性が十二分に滲み出ている作品だと思います。
キャラクターたちの優しさが、ご本人の人柄から生まれているため全然嘘臭くなくて、説得力がある。
だから読者の方も心を動かされるのだと感じます。
また、高校生の世界が舞台になっていますが、先生自身が本当に少し前まで高校生でしたので、青春を過ごすキャラクターたちの瑞々しさや解像度が高いところも、本作の魅力だと思います。
――アニメ化に際して、原作サイドと制作チームではどんなやりとりをされましたか?
平岡
CloverWorksさんは作品の良いところを、非常に高いレベルと精度で抽出してくださる印象があります。
そのため、キャラクターデザインなど、実務上の細かなやり取りはあるものの、大枠として原作サイドから「これはこうしてください」といった特別なオーダーは出していません。
とにかく出てくるもののレベルが等しく高いので、こちらとしても「ありがとうございます、楽をさせていただいています!」といった感じで(笑)。三香見先生もよく感動されていますね。
辻󠄀
我々のことをすごく信頼していただけているので、制作もスムーズに進められています。
色彩設定然り絵コンテ然り、質問点にはしっかりレスポンスをいただけて、原作側とアニメ制作側とで良好な関係性が築けていると思います。
最初からみんなで同じ方向を向けていた気がしますよね。シナリオ打ち合わせに入る際も、初稿を読んで「これなら大丈夫だ!」と安心したんです。私のほうで補足などを入れる必要がなく、そのまま原作サイドへお送りしました。
『薫る花』のシナリオ会議は、過去一、二を争うくらい、すぐに終わりました。
早かったですよね?
30分くらいで終わってしまうこともあって、「もう確認事項はないですか? 本当に終わっても大丈夫ですか……?」と…(笑)。
平岡
早すぎてそわそわするくらいでした(笑)。
辻󠄀
何稿も重ねてようやく決定稿に辿り着く作品もあるなか、『薫る花』は本当にスムーズで。
「こんなアニメを作りましょう!」などと制作現場の共通認識をわざわざ掲げる必要もないくらい、堀さんもおっしゃったとおり、初めからみんなで同じ方向を向けているなと感じます。
平岡
黒木美幸監督も含め、アニメ制作チームのみなさんも優しい方ばかりなんです。著者が持つ雰囲気をみなさんもお持ちな印象があります。
だからこそ、作品の世界観も自然と共有できているんだろうなという印象を受けました。
――三香見先生は具体的にどんな形で制作に携わられているのでしょう?
平岡
基本的に意思決定の場には必ず参加してもらっていますが、このとおり非常にスムーズな制作現場のため、先生も終始「それで良いと思います」といった感じでした。
あとは制作サイドが気になったことは細かなことまで質問をくださるので、それを確認しお答えいただいています。
原作と違う印象にならないようにと、CloverWorksさんが丁寧に進めてくださって、それに対して先生もいつも丁寧にご対応くださっている形です。
辻󠄀
僕が言うのもなんですが、こちらから設定に関してめちゃくちゃ細かい質問をしていますよね?
そうですね、そこまで拾ってくれるの!?と驚きながら確認しています。
平岡
僕もさすがに先生だってそこまでは考えていないだろう……と思いながら聞くのですが、すべての質問に対してちゃんと答えが返ってくるんですよね。
だから僕だけ置いてきぼりな気分になることがあります(笑)。
辻󠄀
漫画のコマとコマの間をアニメーションで埋めていかなければいけないので、描かれていないところも映像化する必要がある場合は、原作サイドに確認のうえ、導いていただく形を取っています。
それにしたって質問内容が細かすぎて、答えてもらえるだろうか……?と正直思うのですが、ちゃんとお答えいただけてありがたいです。
――具体的な質問の一例は?
辻󠄀
右利きか左利きかとか。
平岡
ケーキの素材の話もありましたよね? クリームは何色ですか?とか。
断面図に見える果物は何をイメージされていますか?とか。スポンジは普通のものか、それとも色が付いているものですか?とか。そうすると先生自ら「こんな感じです!」と参考イラストを描いてくださることもあり、とても分かりやすくありがたい限りです。
平岡
CloverWorksさんの作品に対する解像度が、とにかく高いんだと思うんですよね。
キャラクターはもちろん、ケーキなども“単なるケーキ”ではなく、物語においてこのケーキにはどんな意味があるのか?というところまで、ちゃんと汲み取ってくださる。
それによってケーキに対しての役割の重さが大きく変わってくるので、描き方も変わってくるのだと思います。
そこは著者も同じで、登場人物を単なるキャラクターではなくそれぞれ“ひとりの人間”として描いているため、何を質問しても「この子はこういう子で……」「ここはこうなっていて……」とちゃんと答えがあるんです。
そんなハイレベルなやり取りをいつも見させていただいています。
――そのほかに制作現場でのエピソードはありますか?
本PVの制作を、ファーストPVとはまた違った本編用の処理で進めるなかで、映像の仕上がりの方向性がようやく見えてきました。
これをもってシリーズとしてどう最後まで走り切るかが、ここからの課題のひとつかなと。
例えば薫子ちゃんの髪の毛の靡き方には気合いが入っていて、これはハードルが上がったぞ!と思いました(笑)。
平岡
ぜひ最終話まで走り抜けていただいて(笑)。
個人的には今回、ロケハンに同行させていただくことが多く、それが楽しかったです。
平岡
遠足みたいですね(笑)。
辻󠄀
大人の遠足的な?
そんなところもありつつ(笑)。
ロケハンですごく細かなところまで写真を撮って資料を集めてくださっている姿など、これまで以上に制作過程を細かく拝見し、これらがどのようにフィルムに落とし込まれていくんだろうと、漫画から映像になっていくところでの面白さを目の当たりにしています。
何より監督含め、関わってくださっているスタッフさん方が、どれだけ真摯に作品と向き合ってくださっているのかを間近に感じ、感謝の気持ちはもちろん、自分も一緒に作っていくのだ、頑張らねば……!という責任も感じています。
元々好きだった『薫る花』をより多くの方にお届けするために、自分にできることは何だろう? 自分はスタッフのみなさんや、作品にちゃんと向き合えているだろうか?
そんなことを思いながら生きている、今日この頃です。
平岡
カッコいい!
一同
(笑)。
素敵な作品を素敵なアニメにしようと、こちらの提案に乗ってくださったみなさんに動いていただいているわけなので。そんな自分自身の忙しない気持ちの変化を感じているところです。

身近な世界観を届けるためにも、声のお芝居にはナチュラルさが欲しいなと

――キャスティングや収録現場に関するエピソードはありますか?
辻󠄀
キャスティングは恐らくチームを組んでから初めて、全体としてひとつの大きな決定をする作業だったので、個人的に印象深いです。各々で悩みながら結論を出したところですから、先生や視聴者の方々のイメージに合っていたら嬉しいですね。
平岡
声のイメージは先生自身のなかにあったようで、実際候補の方の声を聞いていただきました。制作チーム側の意見と、特にズレはありませんでしたね。
原作サイドに最終候補者を提案する際、音響チーム、CloverWorksさん、弊社とで票の割れ方にバラつきがなかったと思います。だからそこでも、みんなで同じイメージを共有できているんだなと感じました。
――物語の中心を担う中山さん、井上さんはフレッシュなおふたりです。
これは個人の考えなのですが、いわゆるアニメらしく作り込まれた感じにはしたくなかったんです。それでは『薫る花』が持つリアル感、身近に感じられる世界観といった作品の良さが薄れてしまう気がして、ナチュラルなお芝居が欲しいなと。とにかく凛太郎と薫子らしい声のイメージであることを第一優先に考えました。
――先生も収録に参加されていますか?
はい、毎話参加してくださっています。
平岡
アニメの収録現場を見るのは初めてなこともあって、第1話の収録中に「感動しました」と涙を流されていました。
泣きながら僕のほうを見てくるので、どうしたらいいんだ!?と焦ったのがちょっとした裏話です(笑)。
ただ監督と音響監督の濱野高年さんのこだわりが半端ではなく、それに伴って収録時間も長いので、途中からは「す、すごいですね……!」と慄いていました。
「みなさんが良いようにしてくださるから、特に言いたいことはありません」とおっしゃっていたのは印象に残っています。
先生はお優しい方ですが、作品に対しての意見はどんな場面でもはっきりお伝えしますから。
辻󠄀
ディレクション側から伝えられたことを、キャストのみなさんがしっかり形にしてくださる対応力も、分かりやすく言葉にする音響監督の伝える力も、双方光る現場です。
ディレクションってどうしてもニュアンス的な内容が多くなってしまうぶん、言葉のチョイス含め、毎回きちんと伝えられていてスゴいなと感心します。
そういうふうに説明するんだ!とハッとさせられますし、ちゃんとそれを受けて修正できるんだ!というところにも驚かされますよね。例えば物理的ではなく心理的な距離感の部分で、「凛太郎はこのタイミングでは、こういう気持ちだよね?」とキャラクターを丁寧に掘り下げてくださったり。
平岡
音響チームもキャラクターの解像度が非常に高く、辻さんたちがおっしゃったように、感覚的な違和感も全部言語化してくださるのがスゴいです。
監督と音響監督の阿吽の呼吸も見事ですよね。
意思の疎通がよく取れていて、安心して見ていられます。
平岡
監督の「んー……」から始まるんですよ(笑)。
辻󠄀
それを聞いて音響監督から「分かる分かる」と返ってきて。こっちは内心、「何のことだ……!?」みたいな(笑)。
「ここだよね?」「そうそこ!」と自然に話し合いが進むんです。
辻󠄀
黒木さんが日々悩んだり努力したりしている姿も目にしていますが、黒木さんが持つ作品を読み解く力や演出力、監督力が、作品に合っているのを感じます。
スケジュール的な部分も踏まえ、良い巡り合わせのもと『薫る花』のアニメーション制作を進めることができています。
――目前に迫った放送開始に向けて、最後に一言お願いします。
平岡
原作ファンの方も絶対好きになっていただけるアニメに仕上げていただいていますので、自信を持って楽しみにしていていただきたいとお伝えしたいです。『薫る花』が持つ伝えることの大切さや優しい世界を、この夏TVアニメでも存分に味わってください。
辻󠄀
原作をご存知の方もアニメから『薫る花』に触れる方も、みなさんが観て「良かったな」と思える何かが残るフィルムを作り上げることが、我々の使命だと考えています。
監督はじめ、社内外のスタッフ一同、一緒の方向を向いて制作を進めていますので、放送を楽しみにお待ちいただけますと幸いです。
自分が思い描いていた以上のフィルムを、素晴らしいチームで作っていただけているなと感じています。みなさんにも、TVアニメとして動く凛太郎や薫子たちの言葉を、そして『薫る花』という作品そのものを受け取っていただけたら嬉しいです。
観る方にとって宝物になるようなフィルムにできればと思っていますので、どうぞご期待ください。